●読書案内 「逆説の面白さ 『こころの処方箋』(河合隼雄著、新潮社発行)を読んで」
(長友  誠、WEF会員、「共育つうしん」35号、1997年8月掲載)

 「人の心などわかるはずがない」というような常識55項目について、筆者の考えていることが述べられています。ところが常識とは思えない、つまり逆説的な項目がいくつかあり、なんだかわけが分からないな…と思いながら読んでいると「なるほどそうか!」と目から鱗が落ちる感じがします。皮相的な常識がどんでん返しを食うところが面白いです。 それらの項目をいくつか紹介してみましょう。

(1) 『理解ある親』をもつ子はたまらない 
 親が理解があると、どうして子どもはたまらないのでしょうか?中を読んでみましょう。「子どもは成長してゆくとき…自分でもおさえ切れない不可解の力が湧き上がってくるのを感じる。それを何でもいいからぶっつけてみて、ぶつかった衝撃のなかで、自らの存在を確かめてみるようなところがある。そのとき…親の壁にさえぎられ…くやしい思いをしたりする。しかし、そのような体験を通してこそ、子どもは自分というものを知り、現実というものを知るのである。いわゆる『理解のある親』というのは、このあたりのことをまったく誤解してしまっているのではなかろうか。」

(2) 100%正しい忠告はまず役に立たない
 どうして100%正しい忠告は役に立たないのでしょうか?その理由がいくつか書いてありますが、次のものはそのうちの一つです。「『非行をやめなさい』などと言う前に、この子が非行をやめるにはどんなことが必要なのか、この子にとって今やれることは何かなどと、こちらがいろいろ考え、工夫しなかったら何とも言えないし、そこにはいつもある程度の不安や危険がつきまとうことであろう。そのような不安や危険に気づかずに、よい加減なことを言えば、悪い結果がでるのも当然である。」

(3) 己を殺して他人を殺す
 これは「己を殺して他人を生かす」の逆説ですが、「相手に対し、言いたいことを言わずに我慢していると、相手が増長する」ということだろう、と思って読んでみたら見当外れでした。「己を殺して」生きている女性が「勝手者」だという評判がたちました。途方にくれ、カウンセラーのところに相談に来て話し合いを続けているうちに、彼女自身次のようなことを悟ることができました。「自分は生きているのだから、自分を殺し切ることなど出来たものではない。言うなれば、己の一部を殺すわけであるが、面白いことに、その殺されて部分は何らかの形で再生してくるようである。…とすると、このように本人の知らぬ間に再生してきたの…が、本人の気づかぬところで、急に動き出すこともあるはずである。」

(4) 自立は依存によって裏づけられている
 自立とは依存を断ち切ることだと思っていました。しかし子どもは小さいとき親に甘える経験が必要だと言うことをよく聞くので、甘えることつまり依存する経験が自立のための肥やしになるのだろうと思っていました。これについて著者はこう説明しています。「親が自立的であり、子どもに依存を許すと、子どもはそれを十分に味わった後は、勝手に自立してくれるのである。」(注:依存的な親が子どもに依存を許すと、こうはいかない) じゃ、自立は依存の後で生じるのかと思うと、次のような説明があります。「自立ということは、依存を排除することではなく、必要な依存を受けいれ、自分がどれほど依存しているかを自覚し、感謝していることではなかろうか。依存を排して自立を急ぐ人は、自立ではなく孤立になってしまう。」

 他に、「灯台に近づき過ぎると難破する」「火を消すほうがよく見えることがある」「うそは常備薬、真実は劇薬」「道草によってこそ『道』の味がわかる」「日本的民主主義は創造の芽を摘みやすい」など分かるような分からないような項目があります。著者は何を言おうとしているか、いろいろ考えてみると面白いと思います。

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