●私の受けた教育 「私を育てた『京都』と『時代』」
(師村 達、学習塾教師、「共育つうしん」35号、1997年8月掲載)
 
 もう、かれこれ2時間近くも立っていた。どの本を買おうかと悩んでいる。1969年、16歳の春、私は大学でなぜ紛争が起こるのか、いくつにも別れたセクトがどんな主張をしているのか、そして誰が正しいのかを知りたかった。だが、どの本も自己のセクトが正しいと主張しているだろう。その影響を受けないで客観的に判断するにはどうしたらよいのか・・・・・・、だから悩んでいた。買わなければ前へ進めない、という思いから決断して1冊の本を買った。

 一字一句を、乏しい経験とあてにならない感性で判断しながら精読した。そして、その本の主張が私の考えと多くの点で異なっていることに気がついた。そのとき私は、批判的に学ぶ術(すべ)を高校生なりに身につけたようだった。

 やがて、労働者のために開かれている夜の「安保学校」へ通ったり、生徒会活動に参加し社会への関心を強めた。16歳の夏、高石友也、岡林信康、そして高田渡らのフォークキャンプに参加し、朝まで歌っていた。

♪「友よ〜、〜夜明けは近い〜」
 世の中は変わると信じていた。翌'70年、「万博」で国民が浮かれている間に「安保」が自動延長となった。

 私は京都に生まれ育った。「京都」の特殊性とそんな「時代」が私を育てたのではないだろうか。中学1年の担任は社会の先生で、ある日、自衛隊は必要かというテーマでクラス討論会をおこなった。不必要を主張したのは私一人で、反論は僅か、討論にほど遠かった。後に、この先生の推薦で私立の進学高校に行くことになる。中学卒業をひかえて数人の友人と一緒にこの先生のお宅に泊まったことがある。
 
 翌朝、こたつの上に置かれた京都教育大学からの一通の通知を見つけて内容を先生に尋ねてみると、その40歳は超えたであろうベテランの先生が説明してくれた。いままで社会科の教員として君たちを教えてきたが、もう一度勉強しなおして「特殊」教育の教員になるつもりだ、という。自らの人生と希望を前向きに語る先生を見て感動したことを覚えている。「特殊」学級の先生として再び教壇に戻った先生を学校に尋ねたことも忘れられない。

 京都の教育の特殊性を指摘することはそう困難なことではない。戦後生まれた「高校三原則」(注1)を基本的に守っていた自由な雰囲気の公立高校、善し悪しは別として個性あふれる私立高校、大学と私立高校の数の多さも特別だろう。当時は、「15の春は泣かせない」(注2)「憲法を暮らしに生かそう」をスローガンにしていた革新の蜷川虎三府知事時代で、その影響は教育制度だけではなく、教職員組合運動や青年運動にも及んでいたように思う。小学生の頃は地域にやってくる京大生(おそらく、セツルメントなどの学生だったのだろう)と活動をしていた。といってもほとんど遊びだが、朝鮮学校へ見学・交流に行ったこともある。

 中学時代は音楽(PP&Mや関西フォーク)を通して社会を意識した。高校時代は映画を通して社会の矛盾にぶつかった。映画「若者たち」や「ひとりっ子」は私の原点である。高校時代の活動で二度の退学勧告を受けたが、学校の模範生であるべき特別進学クラスの特待生だったため退学は免れた。(もっとも、授業料を払うはめになったが・・・・・・)卒業後、1年間家出をして、働く仲間に多くのことを学んだ。彼らは高校の同級生とも、下宿の阪大(大阪大学)生とも違って一人ひとりが真摯(しんし)に生き方を考え、悩み、そして「生きて」いた。このとき、何のために学ぶのか、初めて教えられた。初めて自ら学びたいと思った。

 大学に入ってからは本格的な活動を開始した。社研(社会科学研究会)で哲学や経済学の学習をしながら学内民主化運動の中心にいた。ジャーナリストとして有名になった有田芳生氏と京都社研連を結成したのもなつかしい思い出のひとつである。授業にはほとんど出なかったので、専門の哲学についてはあまり深く学ばなかったが、大学時代に身につけた人生観や世界観はその後の人生の土台となった。

 確かに、「読み・書き・計算」の基礎学力は学校で身につけたものだろうが、私を私たらしめているもの、私をつくってきたものは、「京都」であり「時代」であり、そしてその中にあった仲間であり、経験であった。やっぱりそんなものかもしれないと、いま改めて思っている。

(注1)「高校三原則」…男女共学制、小学区制、総合制。
(注2)「15の春は泣かせない」…子どもたちを苦しめている受験のための競争をなくし、子どもたちの希望をかなえる高校進学を実現させようとする政策、または願い。「高校三原則」の制度もそのひとつ。小学区制は過当な競争を防ぎ、総合制は子どもたちの多様な進路を保障することができるのではないか。

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