●心の教育
(師村 達、学習塾教師、「共育つうしん」45号、1999年4月掲載)

 すっかり無口になった中2の息子が、夕食時に突然話し始めました。今日、給食を食べる時間が10分もなかったこと、それで職員室にいた学年の先生に、これでは健康に悪いのではないかと意見を言って議論をした、というのです。議論と呼べるほどのものではなかったのでしょうが、自分の意見を先生に聞いてもらえた満足感で、聞いている私にもわかるほどうれしそうでした。

 ところが、その先生との会話を聞いていた別の学年の先生が近寄ってきて、「生徒が口出すことではない。給食の準備に時間がかかりすぎるからだ」と怒ったように言ったそうです。その先生の性格をよく知っている息子は、すぐにその場を離れただけで特に憤慨している様子もありませんでしたが(これがまた今の子どもらしい!)、親の私は穏やかではいられませんでした。「心の教育」(第16期中教審)といいながら空々しい。

 先日、広島県立高校の校長が、君が代問題で自殺するという何とも悲しい悔しい事件がありました。昨年、所沢高校の卒業生に話を聞き、むちゃくちゃな押しつけが行われているのだなと実感しましたが、国家、政府の意志を教育現場で押しつけ始めたなら歴史の過ちを繰り返すことになります。学校では、君が代の「意味」や日の丸の「歴史」を教えているのでしょうか。

 日本が、世界で158番目に「子どもの権利条約」を批准してから今月23日でちょうど5年がたちます。昨年、日本政府が国連本部で行った「子どもの権利に関する委員会」への初回報告に対して、委員会は審査結果を最終所見として発表しました。それによると、「極度に競争的な教育制度によるストレスのため、子どもが発達上の障害にさらされている」「学校において重大な暴力が頻発していること、特に、体罰が広く用いられていること、(中略)を懸念する」という重要な指摘がなされています。

 子どもの「問題」の根本的原因を科学的に調査、研究することなく、「心の教育」や「君が代・日の丸」を押しつける「おとなの心」を問題にしなくてはいけません。子ども不在、子どもの心を踏みにじる教育に何も解決できないのでは……。

 さて、本気で「心の教育」というなら、一ついい方法がありますのでご紹介します。この「共育つうしん」に、連載「ちょっといい話」を書いていただいている妹尾信孝さんのお話を、子どもたちにそして先生たちに聞いてもらうことです。すでに多くの学校で講演をされていますが、今年2月の講演会(WEFと桐生フリースペース共催)でお話を伺って、ぜひとももっと多くの子どもたちに聞いてもらいたいなぁと思いました。

 出産から(妹尾さんは難産の後遺症で四肢と言語にハンディキャップを持つことになりました)大学卒業にいたる妹尾さんの心の軌跡と仲間との交流、ご両親のこと、福祉と教育のこと、そして人が人とともに生きているその大切さを熱く語っていただきました。お話の随所に、心豊かに生きる妹尾さん自身の生き方が私の心に伝わってきて、とても元気になりました。悩みがあっても夢が実現しなくても、死なないで、心豊かに生きていくこと、人とともに生きていくこと、その大切さを子どもたちに伝えたい。

 おとなが心豊かに生きていなくて、子どもになにが伝えられますか。

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